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愛澤 伯友(Shirotomo AIZAWA)

1962年生まれ。東京芸術大学音楽部作曲科卒業、同校音楽研究科大学院修士課程作曲専攻修了。安宅賞受賞。1999年国立劇場作曲コンクール佳作入賞。ウィーン夏期講習会「指揮」デュプロマ賞受賞。

幼少より筝曲を習い、大学時代には、雅楽を学び、洋楽の作曲だけでなく、邦楽や邦楽器を使った作曲にも使命感を持つ。作曲を野田暉行・三善晃・鵜崎康一の各氏に師事。この他、篠原眞に師事を仰ぐ。和声を島岡譲氏に師事、ピアノを植田克己・丸山修司・岡野寿子他に師事。指揮をF・トラビス、J・カルマーほか諸氏に師事。ベルリン芸術週間「指揮」参加。

作品に、「篳篥とオーケストラのための情景」太田フィル、太田市/「希望の船出(オーケストラ編曲)」東京都/「signifiant(シニフィアン)」東京芸大管弦楽研究部初演/「黄櫨染(こうろぜん)」尺八ソロ、「色彩の間」にて初演/「濤声(とうせい)」'97東京ウォーターフロントコンサート「水の音原風景」にて初演、「永遠なる水の道」(パナマ運河返還記念曲)'99パナマ運河写真展オープニングセレモニーにて初演、などがある。

ウォーターネットワークのためのオリジナル作曲


「濤声(とうせい)」
尺八、大鼓
「水」はさまざまに変態する。氷−水−霧。雲−雨−泥濘。湧き水−河−海。…波。ひとつの「もの」が、これほどまでに多様に変化するものは他にはない。また、時間や光、自分の気持ちによっても見え方は変わってくる。
曲は、いくつかの「シーン(情景)」が連続的に連なり、シーンの中でも、音は次々と連なり、変化してゆく。場面が全く変わるシーン同士も、結局は全体から見れば単に隣り合った「鎖」でしかない。木々に囲まれた山奥深くに湧き出た泉は、やがて川となり、海に広がり波になる。曲は、そうした水の多様な側面のいくつかを「音」という言葉で置き換えてみたものである。
歴史的に言って、本来、決して共演することのない「尺八」と「大鼓」という編成は、私の想像力を強く刺激した。同時に、誰も踏み入れたことのない「原生林」に「羅針盤」ひとつでほうり込まれた。そして、困窮した。今歩んでいる道は、やがて「地図」となる日がくることを二人の演奏家に託している。

「水煙」
尺八、能管
海面と雲海のあいだを行き交うことがある。
鉛色の雲が一面に、果てしなく海の上を覆う。いまは穏やかな大気だけれど、ときには、灰色の影を持った雲が荒れ狂い、それに共感するかのように海面に白波が立つ。
雨は、もはや上から降るというなまやさしいものではなくなる。太い水柱が海中から上昇し、大量な水を上空へとすくい上げる。そして、空と海との無限の循環がはじまる。
「あぁ。(水柱は、幻想だった...)」
最悪の状況は、変わらない。灰色の世界の中をせめて姿勢だけは正して進む。一瞬のうちに、目の前の視界が嘘のように開け、まぶしい太陽と紺碧の空の下、すくい上げられた水だけが、目には見えないけれど、頬に触れる。
通常の演奏形態では決してありえない、ふたつの楽器の競演は、私に強いインスピレーションを引き起こしてくれた。融け合うように。ときには、競い合うように、曲は進んでいく。以前書き上げた同タイトルの曲を、優れたふたりの演奏者に合わせ、改作した。そして、サンテックスのオマージュにと...。

「永遠なる水の道」(パナマ運河返還記念曲)
尺八、筝、大鼓、小鼓
この曲は、パナマ運河返還に関わる行事のひとつとして、駐日パナマ大使、尺八演奏家田辺洌山氏、ウォーターネットワークの委嘱により生まれた。
「水」は、山肌で生まれ、やがて川となり、海へと注ぐ。日常では、その誕生のストーリーにばかり、目を奪われがちである。しかし、海に辿り着いた「水」は、そこから長い、真の「Voyage」が始まる。何千年もの間、いつか雲へともどるまでの旅である。パナマ運河は、この「水」と言うつながりを通じて、いくつもの大洋を結んでいるばかりではなく、東洋と西洋を物質的にも結んでいる。
曲は、水の誕生から旅立ちまでを、古典的な曲想「手」を現代的な手法で再構成し、音楽的に表現した。

「月暈(つきかさ)」(おかやま後楽園300年祭記念曲)
尺八、十七絃、筝
日本の古典音楽は、西洋音楽のような「枠構造」を基本にするのではなく、「個」から「個」へと移り行くことを構造の基本としている。
樹々、潅木、芝。川、せせらぎ、池。
一見、何の関連もないように見える「小路」と「曲水」は、何度となく交差する事で深いつながりを持っていることに気づく。
まさに、邦楽は、回遊式の庭園内を散策しているような感覚。
歩を進めれば、植物が、景観が変わる。
ひとつの場所に留まれば、四季による変化が感じられる。
幾年月も、変わることのない「いとなみ」が。

「黄櫨染(こうろぜん)」
尺八ソロ

「半(はした)」
尺八、筝、鳴物

「覗(のぞき)」
尺八、小鼓

「蘇芳(すおう)」
尺八、尺八、筝、十七絃
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