水と政治
「20世紀は領土紛争の時代だったが、21世紀は水紛争の時代になるだろう」
セラゲルディン世界銀行副総裁は水の問題をこう予見した。爆発的な人口増加、世界秩序の不安定化の中で水を巡る紛争が顕在化する可能性がますます高まっている。
「水危機の時代」と言われる21世紀。「水の惑星」である地球の根源的な問題である。
世界の水問題
地球の水は人類だけのものではなく、地球上に存在する全ての生命の共有財産であるが、この「水と政治」においては、水と人類の現状について考えてみよう。
- 水は限られた資源・人類が使える範囲が限られている
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地球は水の惑星と言われるが、その水の97%が海水で、残り3%が淡水。しかも、その3%の大半は極地や氷河の氷として存在し、氷以外の水の多くも水蒸気や雲といったかたちで大気中に存在する。人類が使えるのは川・湖・降雨などの表流水と呼ばれる水で、それは地球上のわずか0.01%に過ぎない。
- 人口の増加が水不足を深刻化する
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60億人を突破した世界人口は、2025年には80億人に達すると予想される。水をめぐる国際紛争に至っている地域もあり、更に水不足が増大する。地域によっては危機的な状況になることが考えられる。国連の予測では世界の水使用料は2025年には利用可能な水量のほぼ9割に達し、各地で水不足に陥る可能性があるとしている。
- 地球温暖化により、洪水や砂漠化が拡大
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地球温暖化により各地の雨の降り方が変化していくと予想されている。その変化は多雨地方で更に多く、乾燥地帯で更に少なくなるというもので、局地的な洪水、その一方で砂漠化が進むと懸念されている。
水の紛争
水問題の専門家として知られるGleickは紛争の種類を四つに分類している。
- 水資源の獲得を目的とした軍事行動:98年にマレーシアがシンガポールへの水の供給停止の威嚇を行なったのに対し、シンガポール軍に出撃命令を出す体勢がとられた。
- 水供給システムの攻撃:シリアがイスラエルの水供給システムを破壊しようとした。ベトナム戦争において、米国は北ベトナムの灌漑用の土手の破壊を行なった。
- 水を紛争の手段として使う:90〜91年の湾岸戦争で、ユーフラテス川上流にあるトルコのアタトルク・ダムを閉めてイラクに水不足による圧力をかけようという案があったが、これは不発に終わった。
- 河川の取水をめぐる紛争:ナイル川の上流諸国とエジプト。ヨルダン川。アマゾン川の上流諸国とブラジルなどで緊張がある。
水の国際問題、その事例
- ナイル川
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「エジプトはナイルの賜(たまもの)」と言われるように、古代エジプト文明はナイル川によって育まれた。全長6700km、世界最長の河川であるナイル川は、エジプトだけでなく10ヶ国の国々が関わり3億人の人々がその恩恵にあずかっている。19世紀半ば以降、取水堰やアスワンダムの建設などによりナイル川は人為的に管理されてきた。貧困や内戦、急激な人口増加などで、水需要と供給のバランスが崩れることも予想され、その流域の統合的な水資源管理の地域協力が取り組まれている。乾燥地帯にある最下流のエジプトとスーダンで、水需要のほとんどが発生しているのも特徴。
- ガンジス川
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ガンジス川はヒマラヤ山脈に端を発し、ネパール、インド、バングラデシュを流れる。人口も増大しており、特に最下流国であるバングラデッシュでは乾期の水量不足が顕著になっている。インドとバングラデッシュの水資源の配分は最大の政治的課題の一つになっていた。1996年「ガンジス川条約」では下流の権利を尊重した内容となり、ガンジス川流域の強調の道を探る機運が生まれはじめている。
- 漢江
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韓国の首都ソウルを流れる漢江の上流は北朝鮮の水源地帯で、大型ダムが建設されている。両国が戦争状態に突入したときに、北朝鮮がこのダムから一気に放水して大氾濫を発生させ首都ソウルに被害を与える可能性があるとして、その対抗策として国境のすぐ下流に空の大型ダムを建設した。世界でも例のない戦争防衛目的に建設されたダムだ。
水をめぐる世界の動き
- 1970年代以降、国際社会の環境問題に対する関心の高まりや、水をめぐる国家対立を世界的な視点で検討しようという動きが出てきた。
- 1977年、国連で初めて水に関する国際会議(マンデルプラタ会議)開催。
- 1992年1月、ダブリン会議(水と環境について広く議論)。
- 同年6月、地球サミット(ブラジル・リオデジャネイロ。淡水資源の確保が主張)。
その後、干ばつや砂漠化、洪水や水質汚染などの拡大に、国連や各国政府だけでなく水に関するあらゆる分野の専門家、関係者が共に活動できるような仕組みが求められるようになった。
- 1996年 世界水会議(WWC:World Water Council) の設立(専門家、学会、国際機関が中心となり設立)/世界水パートナーシップ(GWP:Global Water Partnership)の設立(国際的な資金提供機関が中心となって、途上国における統合的な水資源管理を支援するために設立)
- 1997年、第1回世界水フォーラム(モロッコ・マラケシュ)開催。世界水会議によって提唱された会議で、政府、専門家、NGO、一般市民などあらゆる人々が一堂に介し、21世紀の国際社会における水問題の解決に向けた議論を深め、その重要性を広く世界にアピールすることを目的に開催。世界水ビジョンを策定することが決定された。
- 2000年、第2回世界水フォーラム(オランダ・ハーグ)開催。
世界の水の現状と25年後の姿並びに将来に向けて私達がとるべき行動を様々な面から検討した「世界水ビジョン」を発表。この策定プロセスには電子メールを利用した意見交換を通じて世界各地の15,000人を超える人々が関り、内容の充実が図られた。同時に、130ヶ国から参加した水関連大臣により「21世紀における水の安全保障」を目標とした「ハーグ宣言」が採択された。
- そして、2003年3月16日〜23日、第3回世界水フォーラムが日本で開催される。京都・滋賀・大阪を結び、琵琶湖・淀川流域で開催。〔参照:第3回世界水フォーラムWebサイト〕
ウォーターネットワークも、第3回世界水フォーラムのパートナー機関として活動を行なっております。一人一人の意識が水の未来、地球の未来を永続的なものにしていきます。皆様方の参加をお待ちしております。
水と政治に関してのご質問などは、何なりとお問い合せ下さい。